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鉛の活字を組み、手動の印刷機で一枚づつ手作業で名刺やカードを作っています。
 
古い本のザラザラした手触りや、天地が逆さまになった文字。
今思えば、活字を実際に見るずっと前から活版印刷に惹かれていました。
 
一度作品制作をお願いした富山の印刷屋さんがお仕事を辞められることになり、活字は金属業者に売ると聞きました。活字や込(スペースの部品)は溶かされて、グラムいくらと値段をつけられ取引される。もったいない、と思うと同時に悲しいような、怒りのような気持ちでいっぱいになりました。
大型スーパーが出来て、お肉屋さんや八百屋さんが閉店する。銭湯が、傘屋が、手芸屋がなくなる。私の好きな風景を作っていた小さな商店は、どんどん減ってゆきます。
昔に戻るべきだとは思いません。新しいもの/古いもの、便利なもの/不便なもの、速いもの/遅いもの…そんなものがごちゃごちゃと入り乱れて、街や社会ができていたほうが、私は面白いと思うのです。
常々そう考えていた折の、活版印刷屋さん廃業でした。
「私に譲って下さい!」とお願いし、字をさがすところから、版の組み方、刷り方など一から教わりました。
 
活版の特徴は? と聞かれることがよくあります。印刷面の凹凸はもちろんですが、私には“手仕事でできたものを所有する喜び”がおおきいと思います。名刺を渡すのが楽しみになるような、仕事や趣味をもっと頑張りたくなるような名刺をつくりたいと思っています。
 
 
ユートピアノのこと